摩擦,ひと筆.

摩擦です。暇な時に書きます。

§6「『畜犬談』にて 心情・理由説明の想定問とその返答」

『畜犬談』をよむ

Q傍線①直後「殺そうと思ったのである」とあるが、この時の「私」の心情を説明せよ。

A家主からの引越しの通知を心待ちにしていた時にポチが皮膚病にかかり醜い姿となり、私はより一層辛抱する羽目になった。それなのに肝心の返事は引越しを先延ばしにするものだったので、私はことあるごとにポチを呪うようになったが、自分の寝巻にポチの蚤がついていたのを見て、恨むばかりするのも我慢の限界だと感じている。

補足:傍線①以前の内容をまとめると上記

補足2:問二の解答は

引越しを機会にポチを置き去りにしようとするとポチは皮膚病を発症したが、新居の建設が遅れ、皮膚病はますます悪化し、酷暑や不眠もあって「私」や妻は我慢の限界を迎えようとしていた。悪いことはすべてポチのせいだとポチを呪咀し、蚤をうつされた時点で、ついに怒りが爆発し、殺そうという決意に至ったわけだから、この経緯は無理もないことだと考えている。 

 

Q上段左から11行目~、「私」が、「きょうは、あんな、意地悪くポチの姿を見つめるようなことはしない」のはなぜか。

Aポチを殺せば、ポチの存在に堪えながら生活する日々は終わりを迎える。(たしかにポチとの生活が今のように続けばポチのことを意地悪く見つめるだろうが、)そのことが分かっているなら、どうせ今日で殺されてしまうポチに対して苛立ちを覚える必要はないから。

補足:「そのこと」→「ポチを殺せば、ポチの存在に堪えながら生活する日々は終わりを迎える」

 

Q「赤毛の犬」が「ポチの寒しげな睾丸をねらった」のは何を意味するか。

A赤毛の犬はとことん下劣で卑劣な、ばか犬であること。

補足:一見文章に関係ないところでこのような表現を使って作品を彩り、引き立てていく太宰治は凄いなと、素人ながらに思う。

 

Q下段右から5行目「喧嘩が終って、私は、ほっとした」とあるが、「赤毛の犬」との格闘を通して、それ以前と以後について、「私」の「ポチ」への態度はどのように変化しているか。

A喧嘩が起こる前は私にとってポチは醜いだけの獣で、自分や家内を苛つかせるものだったが、喧嘩のなかでポチを必死に応援する中でポチに親しみが湧きはじめ、ポチが赤毛の犬に勝った時にはポチを褒めるほどに、ポチを忠実で気品ある犬だと考えるようになった。

補足:赤毛の犬とポチの格闘によって示したいのは「私がポチに親しみを覚えた」こと、と考えれば解答作成上(他の問題であっても)十分な点数が期待できる

 

Q(問三)傍線②にあらわれている「私」の気持ちとはどんなものか、それが生じた理由とともに説明せよ。

Aはじめ自分はポチを殺そうとしていたが、赤毛の犬と相対したポチの姿は醜さとは程遠い気高いものであり、自分もポチと一体感を持ってポチを応援するうちに親しみを覚えた。しかし自分はやはりそのポチを殺してしまったのだという自己嫌悪に陥り、それがだんだんと深まっている。

補足:「(+イメージの)ポチなのに」「自分はそれを殺してしまった」「自己嫌悪」が「どんどん深まる」部分がポイントになる

補足2:元の解答は以下

ポチを毒殺しようとしていたのに、ポチは他の犬との喧嘩でも「私」の顔色を伺い、従順さを示しており、自分もポチとのある種の一体感を持ち、そのポチを殺そうとしていることに罪悪感を抱き、自身への無力感でいっぱいになっている。

補足3:傍線②直前の「私はポチを見たくなかった」→自己嫌悪から、自分がポチを殺したという事実を直視できなかったことの表れ

 

Q(問四)傍線③の記述がこの文章の中で滑稽であるのはなぜか。説明せよ。

A自分がポチを処分した事実がなくなったのをいいことに手のひらを返し、自分は芸術家という特別な立場だからポチという弱者の味方だった、というもっともらしい弁解を並べ立てて、自分がポチにしたことの罪悪感から目を背けようとしている、そんな筆者自身が、実は、この物語の中で一番の弱者であったから。

補足:「手のひら返し」「自分は芸術家という特別な存在なので弱者の味方」←「もっともらしい弁解、理屈」「弱者は筆者であった」の4点がポイントだが、模範解答には4点目は載っていない、見比べてみよう

補足2:元の解答は

ポチを置き去りにしようとしたり、ついには自分たちの焦躁感から殺そうとしたりしただけでなく、ポチの態度を自身に都合のよいように解釈し、皮膚病に侵されたことにも一切同情することはなかったのに、毒殺が失敗したとたんに、芸術家という特別な存在であることを盾にして、手のひらを返したようにまたも自身にとって都合のよい理屈で弁解を並べ立てて、良心の呵責を消し去ろうとしているような表現だから。

補足3:なにをどうしても満点は期待できない上、見てもらえばわかるが模範解答と僕の書きぶりはだいぶ異なっているので、読者諸君には「いいとこ取り」をして自分の解答を作って欲しい

 

Q最終行「家内は、やはり浮かぬ顔をしていた」ときの「家内」の気持ちはどのように推定されるか。

Aポチを毒殺もせずに帰って来て、急に壮大な理屈を語りだす筆者のことを心配している。急にポチへの態度を改めポチに優しくするようになった「私」を不思議に思っている。「私」の理屈に筋が通っておらず、不思議に思っている。など

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