摩擦,ひと筆.

摩擦です。暇な時に書きます。

§7「原研哉『白』を読む 入試問題に現れる東大の明確な意図に感動しながら...」

0, はじめに

 ワイがこれをはじめて読んだ時、「優れた言い回し」は確かにあるのだととても感動したが、「東大入試で出題された」ことをはじめに知らされていなかったのなら、どれだけ良かっただろうかとも同時に強く思ったのだ。日頃目にする、耳にする、口にする...言葉とはある意味で「遭遇」であり、我々は常に「遭遇」するものにおいて未知が認知へ転ずる方向へ体を傾ける必要があるし、そうでなければ、マスカレイドを仮装なしで踊るのがきっと興ざめであるのと同じく、言葉にコクが生まれないだろうし、全くこの通りに感じたのが事実だった。読者諸君も「前もって知りすぎたが故に」出会う言葉言葉の意味を"degrade"するという状況に陥らないように充分に注意されたい。言葉を前にする「準備」と称して全くの悪意なしにそうする場合もある。

1, 東大入試問題解答例

一「「定着」あるいは「完成」という状態を前にした人間の心理」(傍線部ア)とはどういうことか、説明せよ。

A, 人は作品を仕上げる際、それが不可逆的な行為であるために吟味を迫られ、表現上の微細な差異に執着するということ。

 

二「達成を意識した完成度や洗練を求める気持ちの背景に、白という感受性が潜んでいる」(傍線部イ)とはどういうことか、説明せよ。

A, 人が仕上げを意識して表現を磨き上げようとする態度は、白い紙に記されたものは不可逆で訂正不能であるという意識が生んでいる、ということ。

 

三「推敲という意識をいざなう推進力のようなものが、紙を中心としたひとつの文化を作り上げてきた」(傍線部ウ)とはどういうことか。説明せよ。

A, 拙い表現を白い紙に不可逆的に発露することへの呵責の念がより良い表現を求める意識を高め、不可逆性があるもとで一回で鮮やかな表現を仕上げようとする文化を形成してきたということ。

 

四「文体を持たないニュートラルな言葉で知の平均値を示し続ける」(傍線部エ)とはどういうことか、説明せよ。(最難関)

A, ネットは特定の価値観や美意識が存在せず、無数の人々が変化する現実に応じて加筆訂正を続けることによって、皆が等しく共有できる知の水準を示し続けるということ。

 

五「矢を一本だけ追って的に向かう集中の中に白がある」(傍線部オ)とはどういうことか。本文全体の論旨を踏まえた上で、100字以上120字以内で説明せよ。

A, 白い紙に不可逆的に表現をする際には拙い表現を残すまいと逡巡が生まれるが、それを断ち切り己の未熟さを克服して、失敗に臆せず一度で仕上げようと覚悟をもって表現する時、その覚悟の中には鮮やかで感動的な表現のもととなる白がある、ということ。

2, 東大入試問題を解説してみて

 ひとつ補足として、この文章を通して「白」は具象化されていないし、かなり流動的な概念である。一行目と最終行を見比べると、一目瞭然であると思う。聞かれる毎に適切に「白」を換言し分けるないし抽象度が高すぎる場合は「白」とそのまま表記して外堀を埋める形で説明を加えるのが、最も無難であろう。

 そして、東京大学程単純に「受験生に理解してほしいこと」をメッセージとして伝えている入試問題は少ないとも感じた。要は「作者の言いたいことを理解できるか」である。主題の把握である。後はどれほど上手に自分の言いたいことを文字にして人に運べるかである。「国語力」という国語教科において測るべき能力を、当たり前のように問うているだけである。

3, 練習問題

Q, 1⃣「不可逆な定着をおのずと成立させてしまうので、未成熟な物、吟味の足らないものはその上に発露されてはならない」と人が感じるのはなぜか、説明せよ。

A, 不可逆性のある事柄の前では、人は吟味を迫られるから。

 

Q, 2⃣「逸話が逸話たるゆえんは、選択する言葉のわずかな差異と、その微差において詩のイマジネーションになるほど大きな変容が起こり得るという共感が、この有名な逡巡を通して成立するということであろう」とはどういうことか、説明せよ。

A, 逡巡を通して表現には僅かな差が生まれるが、その僅かな差が作品をかけ離れたものにするという事が人々の共感を得たために、賈島の詩作における話は逸話として成立したということ。

 

Q, 3⃣「今日、押印したりサインしたりという行為が、意思決定の証として社会の中を流通している」のはなぜか、自分で考えて説明せよ。

A, 押印やサインなどの契約とは当事者同士が権利や義務を負うものであり、白い紙に訂正不能な出来事を固定する形式はいたずらに当事者同士の関係を改変する虞がなく、この点で適しているから。

 

Q, 4⃣「推敲という行為はそうした不可逆性が生み出した営みであり美意識であろう」とはどういうことか、説明せよ。

A, 白い紙に記すのが不可逆な行いであるために人は表現を吟味をして、磨きあげようという意思を持つ、ということ。

 

Q, 5⃣「白い紙に消し去れない過失を累積していく様を把握し続けることが、おのずと推敲という美意識を加速させる」とはどういうことか、説明せよ。

A1, 拙い表現を白い紙に不可逆的に発露することへの呵責の念が、表現を吟味してより洗練されたものにしようとする意識を自然に高めるということ。

A2, 拙い表現を白い紙に不可逆的に発露することへの呵責の念によって、人々は吟味をして洗練された表現を求めようと自然な形で駆り立てられるということ。

 

Q, 6⃣「印刷物を間違いなく世に送り出すときの意識とは異なるプレッシャー、良識も悪意も、嘲笑も尊敬も、揶揄も批評も一緒にした興味と関心が生み出す知の圧力によって、情報はある意味で無限に更新を繰り返している」とはどういうことか、説明せよ。

A, ネット上では、印刷物を発表する際の高次元で完成された作品であるべきだという圧力ではなく、個人が抱いた考えの集積として織り成される総合知の(大局的な)動向に合わせて、情報はそれが総合知へと近づくように、無限にあらゆる人々によって加筆訂正が繰り返されるということ。

 

Q, 7⃣「無限に更新され続ける巨大な情報のうねりが、知の圧力として情報にプレッシャーを与え続けている状況では、情報は常に途上であり終わりがない」のはなぜか、説明せよ。

A, 個々の意見の集積としての総合知は変化する現実に限りなく接近こそすれど、それが集積であるために、ある絶対的な言説に特定されることがないから。(これは、「うねり」の表現効果に通ずるものでもあり、記憶に値する。)

 

Q, 8⃣「音楽や舞踊における「本番」という時間は、真っ白な紙と同様の意味をなす」のはなぜか、説明せよ。

A, 紙の上にものを書くことと同様に、パフォーマンスも一回性を持った不可逆的な行為であるから。

4, おわりに

 自分で問題を作って解く自給自足生活は存外楽しい。遊び相手がいないわけではない。いつもワイは期末テスト中は理系科目を頑張るのだが、今回は調子が良く、現状理系科目だけなら学年10位以内には確実に位置していると思う。本当に素晴らしいと思う。

 

 

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